ニュースレター第60号「研究の現場から」

「未来文明システム」の開発をめざして 星野克美

2016/04/06 16:41
広報委員(宮嶋)

 

 

 比較文明学会の設立から30年だが、それと前後して、ローマクラブの『成長の限界』から41年、地球温暖化研究のIPCC設立から25年となり、この問に、人類・文明とその存立基盤である地球環境が危機的段階に踏み込んだようだ。シュペングラーが1918年に『西洋の没落』を著わしてから間もなく100年になるが、彼が重視していた燃料・資源の「エントロピー極大化」が迫り、近代文明の没落という警告が現実化しようとしている。 

 近代文明の崩壊プロセスの「未来予測シナリオ」は、犬塚潤一郎教授(実践女子大学)との共同運営サイト"GreenSophia"で、『資源・環境危機未来予測』という研究報告書を公開している。(www.greensophia.org/text-materials/gfuturology)これに前後して、IEA(国際エネルギー機関)は2010年11月に、「在来型石油」の世界生産が2006年に頭打ちとなり、2025年に半減し、2035年に7割5分減少するという予測を表明し、これに対応してIMF(国際通貨基金)も2011年4月に石油減産によって世界GDPが恒久的に減少するという試算を公開した。この二つの国際機関の報告書は、「近代文明の崩壊が始まった」ことを世界に向けて公に認めた歴史上でも画期的なものだ。石油減産によって世界人類が2040年までに10億人、50年までに20億人死亡する、といった物騒な予測さえある。またIEAと国連環境計画は、2017~20年までにCO2ゼロエミッションの経済体制を構築しなければ、地球温暖化による自然生態系の「非可逆的な破壊」を防ぐことができなくなる、と警告している。日本に限ってみれば、数年以内に財政破綻が起きる可能性が高く、4~5年以内に首都直下地震が3~5割の確率で、10年以内に南海トラフ地震が2割の確率で起きるという予測もある。世界も、日本も、まさにU・ベックのいう「リスク社会」に陥っている。 

 このような人類・文明・自然の危機を打開するために、1995年頃から「未来文明」研究を始め、2009年に『地球環境文明論』(ダイヤモンド社)を著わすことができた。本書では、哲学・人間学・人類学・経済学・環境科学・環境文学などの学術知見を統合する「超学的研究」(Trans-Disciplinary Study、「総合知」)の研究方法によって、化石燃料枯渇・金属資源枯渇・地球温暖化激化・自然生態系破壊による近代文明崩壊の必然性を論証し、[人間性一精神一制度一環境一自然]という文明モデルの枠組みによって近代文明崩壊後に成立可能な「超文明」(「自然共生文明」)の全体モデルの可能性を提示した。その後も資源・環境や地球温暖化・異常気象の時系列的な分析を続け、他方で「工業文明崩壊後の超生命文明の構想」(学会誌:27)、「工業文明の崩壊後に、人類はどういう文明で生存できるか」(伊東俊太郎先生・染谷臣道先生編著:『収奪文明から環流文明へ』、東海大学出版会)などの論文で提示したように、「未来文明システム」を理論的に解明する研究に取り組んでいる。 

近代文明の基盤を揺るがす危機的事態はいっそう深刻化して行くと予測され、「近代文明崩壊過程」の分析・予測と、「未来文明システム開発」の研究を続けてゆかざるをえない。なぜなら、近代文明の崩壊過程で生きることを強いられる子供・孫世代を思うと、彼らの生存を担保する「未来文明システム開発」をめざして、「生存可能な文明システムの設計」(理論開発)と「生存可能な地域コミュニティの開発」(実践活動)に、一研究者としても微力ながら尽力せざるをえないと思われるからである。 

 さらに個人活動を超えて広く連携して、GreenSophiaで研究報告書公開や大学生・市民対象啓発セミナーを展開し、「比較文明学会」と「環流文明研究会」(染谷臣道先生主宰)で研究交流を重ね、またグリーンフェローズLLPと日本災害対策機構に参加し自然再生エネルギー開発・地産地消農業開発・防災事業開発を推進し、理論・実践両面の活動を拡げて行くことを期待している。 

 ディドロ&ダランベールが18世紀当時の最先端知識を統合した「百科全書』を著わしてフランス革命と近代文明確立への道を拓いたように、「文明の総合知」の創出を標榜する比較文明学会のような場から、人類生存を担保する「未来文明の構想」と「未来文明システムの開発」をめざす「文明革命」のムーブメントが立ち上がってほしいと切に願う。 

破局過程に入ると、文明変動は急展開する。残された時間は、あまりないかもしれない。 

(多摩大学名誉教授)