ニュースレター第63号巻頭言

文明三学  小林道憲

2016/06/05 11:18
広報委員(宮嶋)

 出雲大社の大神殿は、もとは16 丈(約48m)さらに古くは32 丈(約96m)もあったといわれる。太い柱で建物を空高く持ち上げ、その上に神殿を造り、そこへ昇る長い梯子をつけたものであっただろうと推定されている。この縄文時代に源泉をもつわが国の巨大高層建築様式は、北東ユーラシア起源の巨木信仰と、南方、特に中国南部、東南アジア、南太平洋方面から渡来してきた高床式建築様式が、日本列島で融合されて出来た様式であろう。しかも、それは、日本列島の湿潤な気候風土に適合するものであった。 

 つまり、文明の様式は、文明間相互作用と環境との相互作用からおのずと形成されてくるものである。生命の進化でも、生命体は、生命体同士の相互作用および環境との相互作用から新しい形態を生み出していく。その点、文明も同様である。 

 文明の様式は、特に建築や絵画など芸術によく現われる。例えば、エジプト文明といった場合、われわれは、幾何学的なピラミッドやその石室内に横向きに描かれた人物像などを見れば、すぐにこれは古代エジプトのものだと分かる。このような芸術様式によって各種文明の区別が出来る。しかも、それは、エジプトという、ナイルの水には恵まれていたが乾燥した環境から生み出されてきた様式だといえよう。 

 だが、同時に、中央アジアのシルクロードに見られる金剛杵をもったヘラクレス像や有翼天使像のように、ヘレニズム様式かインド様式か分からないものがしばしば見られる。これは、激しい文明交流から起きてくる様式の混交であり、交流から新しい文明の様式が生み出されてくることを証拠立てている。文明は静的なものではなく、生命の進化同様、常にその様式を変えていく。この様式の変化も、文明間相互作用と環境との相互作用から起きてくるものであろう。 

 今まで人類が生み出してきた諸文明の種別、その変動、様式の変化を考察するには、交流論と、環境論と、様式論の三局面からアプローチしなければならない。わが国の比較文明学の歴史を見ると、交流論はそれなりに行なわれてきたし、環境論も進展してきているが、比較的手薄になっているのが様式論である。その点、文化人類学者のクローバーの『様式と文明』は二十世紀の先駆的な業績として再評価されねばならないだろう。ここで、諸文明を没個性的にとらえその変動パターンのみを比較したトインビーに対して、クローバーは、文明の個性(様式)の把握が文明論の中心問題であることを主張している。 

 今日の日本の住宅建築でも、縄文以来の高床式の伝統と同時に、常に新しい素材やデザインが入ってきて現代日本の住宅様式が生み出されているのである。 

(哲学者)