ニュースレター第46号「研究の現場から」

文明博物館を訪ねて 三浦伸夫

2007/02/01 11:28
広報委員(梅原)

 神戸市のHPによると、かつて文明博物館設置の構想があり、都市文明、科学技術文明、自然とくらしの文明の3つが支柱になる予定であったという。ところが2年ほど前に神戸市企画局に問い合わせたところ、HPは存在するが計画案はすでに中止になったという。 

 ところで文明博物館にはどのようなものがあるのだろうか。現に存在する文明博物館では、大規模なものとしてはアジア文明博物館(シンガポール)、アナトリア文明博物館(アンカラ)、ガリア・ローマ文明博物館(ローマ)などいくつかあげられるが、名称に文明(英語のcivilization)を用いた博物館はそれほど多くはない。その理由のひとつは、文明というものをどのようにとらえるかに関して必ずしも意見の一致がないことにあるのだろう。たとえば、パリでは近年エッフェル塔近くに設立されたケ・ブランリー博物館(http://www.quaibranly.fr/)の名称はジャーナリズムを賑わした。その博物館自体はアフリカ、オセアニア、 

アメリカ、アジアなどの原始芸術を対象にし、いままでにあったパリ各地の博物館の所蔵品を再編集したものであり、当初原始文明博物館という名前にすることも計画案にはあったようだ。文明と野蛮、原始とは何かという旧来の議論が再燃し、結局、博物館の建てられた土地の河岸(ケ)の名前であるブランリーで収拾したという。以下では、カナダのふたつの大きな文明博物館の具体例を見て文明博物館について考えてみたい。 

 カナダ最大の博物館は、ガノー(オタワの対岸)にあるカナダ文明博物館(http://www.civilization.ca/)である。トーテム・ポール収集では世界最大規模で、そのほかイヌイットの生活、カナダ特有の生活用具(スケートなど)などの展示が見られる。もうひとつはケベックシティにある文明博物館(http://www.mcq.org/)。こちらではケベック特有の文化社会を中心に展示解説されている。ところで両者に共通して見られる指摘すべき特殊な内容は、移民と交流に関するものである。周知のようにカナダは移民の国である。初期の英仏はもちろん、中国、イタリア、ウクライナなど各地からの移民が様々な活動を通じて、伝統を保存しながらも新しい形の文明、すなわちカナダを形成した。両博物館では、彼らの存在をおろそかにすることなく、今 

日に至るカナダ成立の展示解説がなされているのが特徴である。ガノーにある文明博物館には日本庭園もある。またケベックにある文明博物館では、多くの移民そして人類が平和に暮らしていくための基本的条件として、とりわけ人権をとりあげ、その歴史と現状を映像や展示品で紹介している。複数の文化の交流によって新しい何かが形成されるという上記の事態は、もはや文化という概念では収まりきれないものである。その意味でカナダには文化ではなく文明という語が似合わしいと思えてならない。ところでフランスでも実際は文明という語が今日よく用いられ、大学の学科や研究所、さらには博物館の名称にも見られることも指摘しておこう。そのことは、現代社会が単一文化の形ではほとんど存在し得ず、何らかの国際交流、民際交流を通じて成立していることを見ても明らかである。様々な文化の総体として文明という概念がとらえられるのではなかろ 

うか。 

 神戸市の文明博物館構想が頓挫したのはたいへん残念であるが、カナダの文明博物館の例を見て、明治以来多くの外国人が居留し活躍した神戸に、さらに古代から様々な渡来人を迎え影響を受けてきた日本に、海外との交流を中心にした新しい形の博物館が設立されるのを望む次第である。 

 

(神戸大学)