第83回研究例会のお知らせとレジュメ

研究企画

2007/11/21 16:30
kikaku

「比較文明学における多様な方法」を総合テーマとして、研究例会を下記のとおり行います。多くの皆様のご参加をお待ちしています。 

 

期日:12月15日(土曜日) 

会場:立教大学池袋キャンパス7号館2階 7202教室 

 

レジュメ 

三枝守隆(立教大学 文学専攻科 比較文明学専攻 博士課程後期) 

「市民は比較文明学を学ぶことができるのか -私的実践をつうじて」 

発表者は、比較文明学を、そのごく一部の狭い領域の独習からはじめて、50年間弱のあいだにさまざまな形で学んできた。そして到達した結論が、とんがった討論(salient discussion)ができるような、4〜5人という少人数での2〜3時間の輪読会という形がもっとも適しているということだったのである。これは偶然にもアメリカの大学院のグレードをあらわすSFR(Student Faculty Ratio)において、その指数が5以下、すなわち教授一人に学生は5人が望ましいとされている水準と一致するものである。 

しかし学生と違って市民の多くは働いており、したがって原理的には、労働を通じて自己の主体的・創造的なエネルギーを発揮してその自己実現をはかりうる立場にある。しかし現実的には、そうはいかないのであって、閑暇を使って自己実現を図らなければならない立場にあるのだ。もし、市民がいわゆる歴史好きであれば、市民にとってはこうした輪読会にはいって討論したりレジュメの準備をしたりすることは、一つの創造的なエネルギーを発揮する場なのである。 

そして、比較文明学は、こうした歴史好きの市民がもっている歴史観を脱構築する視点を提供するものなのである。 

発表では、A.トインビーの比較文明論の学習例と、H-G.ガダマーの解釈学の知見をとりあげて説明する。 

 

阿部珠理(立教大学社会学部教授・本学会理事) 

「Field<現場>の歩きかたーフィールドワークという方法?」 

 「参与観察」という方法が確立されたのは、マリノフスキーの『西大西洋の遠洋航海者』であることは、よく知られている。調査対象の人々の生活に密着し、行動と体験をともにする中でその人々と社会と文化を、自分の目で直接観察し理解する方法が人類学独自の方法として打ち出されたのである。人類学のこの方法は、社会学的調査にも援用され、シカゴ・ソシオロジーの勃興に伴い、都市民族誌というジャンルを形成した。都市民族誌の傑作といわれるホワイトの『ストリート・コーナー・ソサエティー』は、『西大西洋の遠洋航海者』に匹敵するとも言われているが、マリノフスキーの対象であった部族社会、ホワイトの対象であった都市内集団のみならず、フィールドワークの対象は、地理的、文化的なまとまりを持つ集団とは限らない。人と人の出会いがフィールドワークの出発点であるという根本に立ち戻れば、フィールドとは自己さえも含む、他者であるとも言える。 

 その「他者」を参与観察することをフィールドワークといったん位置づけるならば、他者との親密性、少なくとも友好性を確保しないかぎり、参与観察は成立しない。人は心を許さない他者に「自己」をまた自分の属する文化を語ることは稀であるからだ。こうして見ると <現場>を成り立たせるのは、他者との「協同」に他ならないことが見えてくる。同時にフィールドに立った人間は、「協同」するプロセスの中で、「参与観察」という方法自体に疑問を感じ始めるかも知れない。相手に対するするシンパシーが増せば、「観察」という行為が、異質なものに見えてくるからだ。フィールドワークで経験するこのような葛藤は、それが単に「方法」に留まらない、人生経験の位相を含意することを示している。 

 過去のフィールドワーカーの事例を参照しつつ、報告者自身の体験をもとに、フィールドワーカーの苦悩と、フィールドワークの持つ、方法を超えた可能性について考えたい。 

 

神出瑞穂(科学技術・生存システム研究所) 

「システム論からみた科学技術文明の構造と機能 

—20世紀との比較による21世紀の変化の兆候—」 

 20世紀は人間の欲望のおもむくままに科学技術を発展・実用化すると、どのような文明になるかを試みた科学技術文明の「実験の時代」であった。その結果、人類は快適な物質的生活の獲得と同時に人口問題、南北格差問題、環境・資源問題などに直面した。先進国、発展途上国という言葉自体がトインビーのいう“西欧型ライフスタイル”が望ましいとする前提に基づく言葉であり、事実中国、インドはじめ途上国はこの一本道を必死に登りつつある。この20世紀文明の各種功罪を分析した結果、「科学・技術、人工物、人間、環境」からなる一種の「セカンドオーダサイバネテイックス文明システム」(図1)を導き出した。このシステムは複雑な多重フィードバック系が自己組織化、創発、アポトーシスを繰り返しているが、中でも2つの大きな機能に特徴がある。第一は人間の欲望と科学・技術のプラスの効用の間の「ポジテイブフィードバック」増殖機能である。第二は人工物が社会に導入されることにより発揮するマイナスの効用が人間の欲望に制約を与える「ネガテイブフィードバック」の存在である。両者は現代科学技術文明の潜在的「ホメオスタシス(動的恒常性維持)」機能といえる。この2つの機能をうまく制御することが21世紀科学技術文明が「実用化の時代」を迎えるカギである。しかしこの大規模で複雑な文明システムを人類は複雑なまま解決する手段を持っていない。小規模、単純化せざるを得ない。一方科学・技術の領域では普遍性よりも科学・技術を社会・文化とのモジュールとして捉えそのローカル性、多様性を尊重また専門分化と同時に総合化への努力などの兆候も生まれてきた。産業界も大規模地域分業型のグローバリゼイションが行きつくと、地域環境、住民ニーズを重視する産業の“土着化”の方向へ、また地域開発も途上国のライフスタイルの再評価、自然エネルギー重視の“自律型生存システム化”への挑戦も始まっている。これらの兆候を20世紀のそれと比較すると21世紀の科学技術文明システムは、「文明の計測制御機構」を有す「自律分散協調システム」型に“相転移”しようとしているように見える。 

(図1は、当日配布する資料をご参照ください)。